27時の独り言

オタクが好きなものや考えたことをつらつらと述べる場所です

日雛と藍染と

日雛という

肩書きとしての幼馴染の不変性と、一方で気付かぬうちにじりじりと互いの存在感の質感を変えてゆく在り方。特に後者に関連する再考。

 

普通に日番谷を軸にした考察・解釈もどきという予定だったけどやっぱあの人を抜きには語れないなとなった結果、最早メインが誰なのか…


正直複雑だけど

藍染がいたからこそ生まれた世界観の美しさ(まさに鬱くしいってやつ)も好きだな、といった話。

 

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なぜ日番谷藍染に勝てなかったのか。

いやもちろん、能力、スペック諸々からして最強格の彼相手なら日番谷だろうが誰だろうが作中のほとんどのキャラが負けてしまうだろうけど、そういう意味ではなく。

 


戦いに対する姿勢の問題として。


たとえば数百年先で身につけているだろう力を前借りしたとしても尸魂界篇時の日番谷くんが藍染に打ち勝つことは出来なかったんじゃないかという気がする

 

実際藍染と相対すると暴走して一度も勝つことが出来なかったのだけど

 

藍染を倒すためには、邪魔な想いからくるものだとしてもその愚かさを選んでしまう、

そんな彼のやさしさと弱さが私は大好きで

 

 

少し贔屓目な解釈としては

私はここは対話を経て許さないという思いを高ぶらせたのを見るに感情を抑えられないというより、抑えなかった(怒りに身を任せることを選んだ)という方が近いと感じている


もちろんそれ自体青さではあるけど。

 

未熟だから冷静になれないというだけでなくて

雛森に対する想いはその土壇場でも怒りを暴走させるだけのもので

(実際それは日番谷一人のエゴだけど)彼女のためにその憎しみは捨てちゃいけないものだと、藍染に対して怨嗟の一言さえ零すことが出来ない彼女の分まで自分が叫ぶべきだと無意識に自身に課していた節があるんじゃないかと思う

 

 


でもそういう甘さは死神──護廷十三隊らしくないし、当然の如く藍染も切って捨てるもの。

というのが

 

「俺はてめえを斬れさえすればこの戦いで隊長の座を失っても構わねえ」(45巻)

という特に冷静に考えてラインを越えた感のある発言の直後、京楽・藍染の物言いたげなカットで暗示されてる。

 

 


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この「日番谷の若さを分析する大人たちの敵味方越えたリンク」という構図は、藍染は死神に反逆したけれどその実よくその理念を理解しているということが伝わってきて面白い部分。

誰よりも、「死神」らしくあろうとした?尸魂界の守護者たろうとした?そういう誇りがやっぱり藍染のはじまりの1つなんだろう。

 

 


「やはり若い

勝機と見れば計り無く斬り掛かる

それが君の最大の欠点だ日番谷隊長」(45巻)

 

というわりとさらっと読み飛ばしちゃうモノローグも(まあ展開的にどこまで信じていいか分からないけれど)

口に出して煽る際のくん呼びを思い出すと

隊長としての日番谷への期待から来る言葉のようで興味深いし、

 

 

かの有名な(?)

あまり強い言葉を遣うなよ〜も

煽りの意味で解釈されることが多いし実際藍染本人もそのつもりで言った言葉だろうけど、

 


「こういう大事なときに熱くなるな(だからお前は大切なものを護れないんだ)」

という言外の諭しが無意識に含まれているような、

そういう先生気質(?)──教えたがりというか別に言わなくてもいいことを言っちゃうお節介さというか──


が猫を被っていたときだけでない彼の本質の一部としてある気がする

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そしてまあ藍染のそういう日番谷に対する評価はおそらく色んな意味で的を射ていたので、

(本人が自覚しているかは不明だけれど)結果的に日番谷の「成長」は藍染が彼に対して散々「諭して」きたことの反映のようなかたちにみえる。

 


すなわち、死神代行消失編〜の兎角冷静で挑発にも乗らない、簡単に熱くならない日番谷くんは、藍染の言うところの「弱く見えない」強さを手に入れた日番谷くんなんだろう。

 

 

で、

そうやって考えてみると作中の日番谷くんの歩みの行き着いた先は、大人モードとか精神の成熟とかそういう表面的な成長以上に、

 

何のために戦うか

 

死神としての在り方と彼の信条との水面下での相克が強く関わっていたんじゃないかという気がする。

 

 

 

「死神皆須らく友と人間とを守り死すべし」

(73巻)


ということらしいが。


この場面でそれに触れた日番谷くんが話している相手が白哉というのは実際よく出来ている。


白哉は死神の掟と義妹・ルキアへの情

(→緋真さんとの約束、繋がりそのもので、ある意味で夫婦の愛の証)との間で板挟みになっていたという人で、


つまり、えてして死神は一番大切な人を真っ先に護るのではなくて

皆を救うことがひいては大切な人を護ることに繋がるという価値観で動く生き物ということ。

 


これは身近な大切な人を護ることから出発して皆や世界を救っていった一護の在り方とは対照的で、


だから私はなんとなく、将来的に一護が天寿を全うして将来的に尸魂界の住人になったとしても護廷十三隊には入らないんじゃないか?

というか肌に合わなそうと思っているし、

霊圧のこととかがあって、ある種必要に迫られて死神になった日番谷も(責任感は強い人だと思うけれど)、

本質的には世界を守ることとかにそこまで関心があるタイプではなく、自分の手の届く人たちをまず守りたいと思う、一護に近い考え方をしていたんじゃないか。

 

 

 

隊長という立場を失ってもいいという発言しかり、映画(第2弾)とかを見てても組織としての護廷隊にはそこまで心を預けてはなかったんだろうし、

(生来の孤独感がそうさせるのかもしれない)

死神の身分にも本当は頓着していない、ように見える。

 

 

日番谷隊長だ」

というのはアニメで連呼されてお決まり台詞的なイメージだけれど、ふと、それは小さいこととか未熟さの裏返しとして主張するというだけでなく

なんというか、自分で自分を律する、言い聞かせているというニュアンスもあったのかもと思う

 

 

けれど藍染にまつわる厄災に雛森が巻き込まれて、


(それで言うと、雛森に「日番谷隊長だ」と笑う言葉にはいつも「だから安心しろ」「俺がきっと護る」と続く言葉があったんじゃないのかな

 

かっこつけて言葉足りない系男子だからいつまでも伝わらないんだよぅ…いや伝わらなくていいとさえ思ってそうだけどさ…)

 

 

自分は今のままでは「いつまで経っても雛森を護れねえ」と考えて、

結果卍解を真に完成させるまでできたのは


何にせよ護りたいという感情を優先して動くことが真に彼女を護りきることに繋がらないという自覚に至ったからで、

何もかも、その現実に直面させた

月島さん…

じゃなくて藍染のおかげとも言える。

 

 

でも

その弱さが隊長という役職としては致命的になりうるたちのものだったとして、

 

日番谷くんは優秀だから最年少でありながら器用に隊長としての責務をこなしていたようだし、そのままでも別に上手く回っていたはずで、

 

藍染がちょっかいを出さずとも時間を掛けて自然に自分のなかで折り合いもつけられたんじゃないかなと思うし、

 

雛森に至っては自分から依存させて、弱くしていったように見えるので

 

地獄を見せるっていう荒療治で日雛に成長を強いた元凶さんには何の正当性もないのだけど。

 

 


ただし「護りたい」っていう、厳しいことを言えば独り善がりな想いを抱えた日番谷くんの、

彼のそういう未熟さが大好きな私の想いもまたエゴではあり。

 

だからまあ一人の読み手としては日番谷の弱さが藍染というある種のデウス・エクス・マキナ的存在によって責め立てられる流れになるのはむしろ一定の納得感があるというか。

 

 

 

逆に言えば、

皆を護るもの、だからこそ彼女を護るものとしての強さを日番谷が手に入れて、それが叶った瞬間にはちゃんと「ご褒美」があるようになっている。

 

思えば日番谷雛森のために戦うとき、雛森は気を失っていることばかりで

(彼女が傷つく状況に対して戦うのだから当たり前といえば当たり前だけど)、

原作で雛森日番谷の戦いをきちんと目撃したところが描かれたのはこれが初めてだったんだよね。

 

彼が強さを得たことで、雛森がやっと日番谷をみることが出来たというのは日番谷に用意された何重にも掛かった報いなんだろう。

 

 

 

藍染は日雛にとって確かに障害で、一護の身代わりになろうが何しようが私にとってはいつまでも敵だし

日番谷雛森も薄汚い裏切り者のことなんてはよ忘れて幸せになってと思っているけど

(欲を言えば一泡吹かせてやる機会を)

 


2人にとっては確かに

物語を動かし導く存在として大きな意味を持った人だったと思うし、ひなちゃんが彼を忘れることを選ばなかったのもきっと間違いじゃない選択だったんだろうさ

 

 

 

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他者が立ち入ること叶わない強固な繋がりと触れたら壊れてしまうような繊細さの共存、それが日雛…

 

本当にどこを切り取っても美味しいし、

悲劇(という名の藍染)は確かに2人の物語の根幹だと改めて思う。

 

とはいえ。

これからは、彼が憎しみの炎を燃やし彼女が心を凍らせた時間の分だけ

2人がやさしいときを過ごせますよう。